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琥珀色に染まるとき
第14章 MY FOOLISH HEART

夜の世界から成り上がったというあの依頼人は、大手化粧品会社のイメージキャラクターモデルだ。こうした著名人の警護依頼も少なくないが、そのたびに住む世界の違いを感じさせられる。
「私には遠い世界の話よ」
苦笑混じりに言うと、そうだな、という乾いた声が聞こえた。
「お前には似合わねーよ、あんな場所」
「あんな場所?」
敵意さえ感じるその言葉を怪訝に思って聞き返したとき、車がゆっくりと停止した。赤信号に捕まったのだ。
城戸の表情を窺うも、その横顔に変化はない。静かな車内でなんとなく居心地の悪い気分になり、車窓を流れる人々を目で追う。
「俺は社内で一番、お前のことをよくわかってる」
その声に反射的に視線を戻すと、城戸と目が合った。
「ええ。それは私も理解してるつもり」
それだけ答えて黙っていると、次に返された言葉は意外すぎるものだった。
「だから気になるんだよ。お前が女の顔してるのは、どこの誰のせいなのか」
「……なに、女の顔って」
「男に会いたがってる顔」
驚きのあまり、涼子は言葉を失った。城戸は視線を前に戻し、ふうっと息を吐く。
「俺、見ちゃったんだよ。あのとき、お前がモデルみたいな男と……」
信号が青に変わり、車が動き出した。ハンドルを握り直す城戸の手が緊張しているように見え、涼子も自然とひざの上でこぶしを握った。
やはり見られていた――戸惑いと焦りを悟られないよう必死に抑える。そんな心情に気づいているのか否か、城戸は話をやめようとはしない。
「あれ見たときはショックだったね。ここから先は同僚じゃなくて、男の役目なんだなって」
「彼はただの知り合いよ。ちょっと胸を貸してもらっただけ」
「んなわけあるか。あいつの表情見てわかった」
「…………」
「あれは、男の目だよ」

