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琥珀色に染まるとき
第14章 MY FOOLISH HEART

 普段より低く聞こえるその声に圧倒され、反論できない。

「だけど、またクールなお前に戻った。なんかあったんだろ」
「…………」
「終わったのか? そいつと」
「終わるもなにも……」

 心を許し、身体を委ね、ふだんとは違う一面を見せ合った。そして、“好き”という言葉を西嶋から与えられた。たったそれだけの関係。
 思えば、本当に始まっていたのかさえ定かではない。自ら身を引けば、それであっけなく終わるような淡い繋がり。秋の終わりの日差しのように、それはもろい。

「言いたくないなら言わなくていい。でも放っておくことはできないからな。お前は大事な仲間だし」

 その声は厳しいが、その奥に優しさを孕んでいる。それがかえって心を軋ませる。

「心配してくれてありがとう。でも大丈夫」
「そうか?」
「うん。ああもう、思いっきりジムで鍛えたい気分」
「はあ? 急に色気のないこと言うなよ」
「うるさいわね。女の色気とはもう決別したの」
「いやいや、全然できて……」

 なにかを言いかけた城戸が沈黙したあと、車内に響いたのは深いため息だった。なんでもない、と最後に小さく吐かれた一言が胸をざわりと撫でる。

「まあ、別にいいじゃねぇか、もう」

 投げやりに言って、城戸は運転に集中しているオーラを出し始める。

「なによ……」
「あ、ちなみに社内で気づいてるの俺だけだから心配すんなよ。お前、仕事中はあいかわらずポーカーフェイス崩さないから。さすがだよなあ」

 城戸の口調はもうふだんのそれに戻っている。そういう男なのだ。結局は他人の気持ちを汲んで発言する。
 しかしながら、そこまでタイミングよくフォローされてしまうと、自分は案外わかりやすい女なのかもしれないと思わずにはいられない。

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