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琥珀色に染まるとき
第3章 出会いは静かな夜に
***
佐伯と秘書を乗せて目的地に向かう頃には、雨脚はかなり弱まってきていた。ワイパーを止めた車内は、やけに静かに感じた。
「ここでいいわ」
後部座席から聞こえた佐伯の声で、涼子は雑居ビルが建ち並ぶ路地の一角に車を停めた。
当然ながら車内で待機するつもりだったが、一緒に来いという佐伯の強引な誘導により、同行することになってしまった。
急いで近くの駐車場に車を停め、小走りで戻る。だんだんと近づいてくる九階建ての雑居ビル。各階には袖看板が設置されていて、どれも怪しげだ。いったい、このうちのどこに行こうというのか。
狭いエレベーターに乗ると、佐伯のそばに立つ背の高い男が七階のボタンを押した。今まで空気のように存在を消していたその男――藤堂慎也(とうどうしんや)は、佐伯の秘書兼ボディーガードだ。
見たところ年の頃は三十代後半くらいだが、詳しい素性は不明。黒い短髪と良質そうなスーツが彼の実直さを物語っている。切れ長の目とすっきりと整った顔立ちは繊細さを窺わせるが、眼光は鋭く、身体はがっしりとした印象で、さすがボディーガードを兼任しているだけのことはありそうだ。
言葉を発することはほとんどなく、フレンドリーな佐伯とは正反対な男である。
七階で止まったエレベーターから降りると、薄暗く狭い通路の先には、飾りけのない黒い扉が待ち構えていた。地上七階であるにもかかわらず、まるで地下室へと続く秘密の入り口のようでもある。
その扉に刻まれた文字は、BAR Clay――。