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琥珀色に染まるとき
第14章 MY FOOLISH HEART

 一番近くにいた城戸なら、それさえも理解していただろう。だから決して核心には触れず、あくまで同僚という立場を崩さずに、適度な距離を保ちながら見守ってくれていたのだ。その均衡が、西嶋に出会ったことで崩れようとしている……。
 西嶋の懐へ飛び込めば城戸との関係が変わってしまうかもしれないと、心のどこかで危惧していた。だが、そうしてしまった。大切な仲間の想いを踏みにじり、優しい大人の男の好意に甘えた。

 そうして結局、真実を知って逃げ出し、ふりだしに戻った。それでも、一度ひびが入ってしまった均衡は元には戻せない。それ以上亀裂が深くならないよう、表面を塗り固めるしかない。
 あの日――あの雨の夜、西嶋のもとへ行かなければ、誰も傷つかずに済んだかもしれない。そう思いながら、流れていく夜の景色を眺めた。

 しばらくすると、ひざの上に乗せてあるバッグから、車の振動とは別の振動を感じた。着信を知らせる携帯電話を取り出して画面を確認した瞬間、涼子はそのまま固まった。

「出ねーの?」

 城戸が静かに尋ねてくる。

「……誰?」

 心配と嫉妬の入り混じったような声。城戸は確実になにかを感じ取っている。
 着信の相手は西嶋だ。最後に会った七夕の翌日以来、向こうだって電話もメールもよこさなかったのに、なぜ……。

──もしかして、真耶さんのことで……。

 一瞬にして嫌な想像がよぎる。ちらりと城戸の様子を窺うと、硬い表情のまま前方を見据えている。その横顔は乾いた空気をまとっている。

「出ろよ」

 いつもより低く冷たい声で急かされ、おそるおそる画面にタッチした。一気に緊張感が押し寄せる。

「……は、はい」

 絞り出した声はかすれていた。

『涼子ちゃん、こんばんは』

 耳に入ってきたのは、西嶋の声ではなかった。

『私よ』

 威圧感さえ感じるその声に身体がこわばる。

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