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琥珀色に染まるとき
第14章 MY FOOLISH HEART

『あら、なにも聞こえない。おかしいわね。涼子ちゃーん』
複雑に絡み合った思考回路の中、やがてある人物の顔が浮かんだ。
「……佐伯さん?」
『そう、佐伯理香よ。応答がないから心配したわよ。あ、私がすぐに名乗らないから驚かせちゃったのかしら。ごめんね』
「い、いえ。大丈夫です」
そう答えるものの、胸の中はまだ腑に落ちない感情に支配されている。今日は日曜日。西嶋の店は定休日のはずだが、なぜ彼の携帯で佐伯が電話をかけてきたのだろう。
臨時で店を開けているのだろうか。たとえそうだとしても、なぜ西嶋ではなく、彼女が……。西嶋が怪我でもして手を動かせないとか、声が出せない状態だとか、あらゆる想像を巡らすが、どれも都合のいい妄想でしかない。
店ではないどこかに、二人でいるのかもしれない。
――なにそれ。ばかみたい……。
よからぬ想像を打ち消して自嘲するが、胸の鼓動は身体中に響いている。そんな不安をよそに、佐伯の声は愉しそうに弾む。
『今お仕事中?』
「いえ、帰宅しているところです。あの……」
彼はそこにいるのかと尋ねたくて口を動かすも、続きが出てこない。受話口の向こうに伝わるのは無言だけだ。西嶋のことになると、これまで意識しなかった臆病心を嫌というほど思い知らされる。
『なんだか元気ないわね。西嶋くんとおんなじだわ』
その愛称を耳にした途端、背筋が伸びた。
「あの……西嶋さんは、ご一緒ですか?」
極力抑えた声色で問うと、そうよ、と笑いながら返される。
『藤堂と三人で飲んでたの。たまに一緒に飲みにいくのよ。これから二軒目に行くから、涼子ちゃんも誘ってみようかなと思ってね。そうしたら西嶋くんが、だめだって』

