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琥珀色に染まるとき
第14章 MY FOOLISH HEART

 一瞬の無音のあと、佐伯の声が続く。

『理由を聞いても教えてくれないのよ。私は涼子ちゃんのプライベートの連絡先は知らないし、会いたくても会えないでしょう? だから、ちょっと西嶋くんを脅して、スマホを貸してもらったの』
「脅して……」
『涼子ちゃんのことが心配だったのよ。それなのに、西嶋くんには呆れられるし、藤堂は怒ってるし、もう散々よ』

 ふふ、と品のある笑いが耳元で響く。

 西嶋はやはり、知っている――限りなく確信に近かった仮定は、ついに確信に変わった。
 涼子は呆然とシートにもたれかかった。そこで、はっと我にかえった。いつの間にか自分の住むマンション前に車が到着していることに気づかず、隣に城戸がいるのも忘れ、電話の向こうに広がる光景を思い描くことに夢中になっていたのだ。

 涼子は、ひっそりと笑った。それは安堵でも自嘲でもなく、哀しみを孕んだ笑みだったのだろう。

「……おい」

 すぐ近くで低い声がした。すっと伸びてきた城戸の手が、左頬に触れる。目から伝うものを親指で拭われ、自分が泣いていることに気づく。

『うるさいわね、藤堂。もう少し』

 右耳に当てた受話口からは、藤堂になにか言われているであろう佐伯の声が流れてくる。頭によぎるのは、ほろ酔い状態で電話をする佐伯、それを咎めるしかめ面の藤堂と、困ったように微笑む彼──。
 そこにいる彼の姿を想う。電話越しに気配を感じるなど、気のせいかもしれない。しかし、西嶋はたしかにそこにいる。

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