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琥珀色に染まるとき
第14章 MY FOOLISH HEART

──それなのに、声が聞けないなんてね……。

 自らの決断と未練を棚に上げ、遠くにいる彼に心で訴える。このもどかしい距離は、彼との心の距離を象徴している。そう思うと、また一粒、彼への想いを乗せたしずくが頬を伝い落ちた。

 いったいなにを期待しているのだろう。会いたい――そんな言葉を囁いてもらえるとでも思っていたのか。なんと愚かな女なのだろう。
 向き合うことから逃げた自分には、寂しさを感じる資格などない。それなのに、どうして心というものはこうも勝手に揺れ動くのか。自分の未練がましさには本当に失望させられる。

「東雲……」

 無防備な頬は、目の前にいる違う男に触れられている。その手をどけようと腕を上げたとき、右手にある携帯を奪われた。

「あっ、ちょっと……」

 奪い返そうとするも、力強い手に腕を掴まれてしまう。

『――涼子ちゃん?』

 エンジンが切られている静かな車内にいきなり大きく響いた高い声に、肩がびくりと震えた。どうやら城戸とのやりとりで、誤ってスピーカー通話に切り替わってしまったらしい。

『聞こえてる? 西嶋くんは、あなたのこと……』

 再び発せられたその名前に小さく反応した直後、佐伯の声が突然聞こえなくなった。ざわざわという雑音の次に、耳に飛び込んできたのは――。

『涼子』

 最も思い焦がれた男の低音だった。

 一瞬、息が止まるほどの衝撃が身体に走り、視界がみるみるうちに涙でにじんでいった。早く返事をしなければと、気持ちばかりが焦る。

「に、にし……」

 祈るような気持ちでその名を呼びかけたときだった。

「俺は、こいつが傷つく姿を見たくない」

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