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琥珀色に染まるとき
第14章 MY FOOLISH HEART

 俯く城戸から吐き出されたその言葉が、誰に向けられたものなのかわからなかった。しかし、次の台詞が自ずとそれを悟らせた。

「あんたがどこの誰か知らねーけどな、東雲を傷つける野郎は俺が許さない」
「……っ」

 あろうことか、城戸は電話の向こうにいる見知らぬ男に論争を挑もうとしている。

「ちがっ……違うの!」

 涼子は小さく叫んだ。驚いて顔を上げる城戸を見据える。

「傷つけたのは、私なの。彼のほうが、私よりもずっと、傷ついてきたの」

 意図を把握できない城戸は、眉をひそめて黙っている。

『涼子……』

 城戸の手中で、姿なき西嶋の哀しげな声が響く。なんと滑稽なのだろう。こんなふうに、こんな手段で、真実を口にするつもりなどなかったのに……。

「私なんかより、つらい思いを、ずっと……」
『涼子。言わなくていい』

 もはや、彼が発した言葉を理解する余裕さえ残されていなかった。これまで独り抱えてきた感情は、ひとたび溢れ出してしまえば止めることは叶わない。

「私じゃないのに……」
『それ以上言うな』
「こんな……っ」

──こんなはずじゃなかった。きっと、あなたも。

「あなたは、真耶さんを愛してたのに……」

 車のフロントガラスを大粒の雨が叩き始めた。
 涼子は、城戸の顔も見ずにその手から携帯を掴み取ると、バッグを抱えて車から飛び出した。去り際になにか言われたが、打ちつける雨の音にかき消された。

 城戸を責めるのは筋違いだ。あの状況で、事情を知らない彼のしたことはおそらく正しかった。だが、それ以上言葉を交わす気にはなれなかった。

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