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琥珀色に染まるとき
第14章 MY FOOLISH HEART

 降りしきる雨に追いつめられ、マンションに逃げこむ。エントランスを過ぎ、エレベーターを使わず階段を駆け上がった。息が苦しくて、胸が張り裂けそうになっても、立ち止まらなかった。これまでそう生きてきたように。

 部屋の前に着いたときには、心が悲鳴を上げていた。玄関の扉を閉めたとたん、限界まで膨れ上がったすべての感情がまぶたの奥から湧き出してきた。
 乱れる呼吸の中、冷たい床に座りこみ、涼子は嗚咽した。誰が聞いているわけでもないのに、声を押し殺して……。

 愚かな心は、この期に及んで、彼を想いながら涙を流し続ける。もう会えないと枕を濡らしたあの日よりも、深く、激しく、叫ぶ。

 それが決して綺麗事で済まされないことはわかっている。想いを貫けば、二度と後戻りできなくなることも。わかっていながら、彼に魅せられた心はそれを望んでいる。もうこんなにも、惹かれてしまった。
 まるで彼のもとへ繋がる泥沼に引きずり込まれていくように、身動きが取れないのだ。そういえば彼の店にはそんな噂があったなと、この状況で甚だ無意味な思考を働かせる自分がおかしくて、涼子は泣きながら笑った。

 玄関の明かりだけを頼りに真っ暗なリビングを進み、カーテンをそっと開ける。その隙間から見える闇の空に向かって、涼子の心は許しを請う――。

「真耶さん……私、やっぱり……」


――あの人を、愛したいの。

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