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琥珀色に染まるとき
第14章 MY FOOLISH HEART

***

 手のひらの上でなにかが振動していることに気づき、薄く目を開ける。部屋の中は暗闇に包まれている。
 あのままリビングのソファーで眠っていたらしい。どうりで肌寒いと思ったわけね、と思い、涼子は苦笑した。意識がはっきりしないまま、震え続ける携帯電話の画面を見て、一気に目が覚めた。

「え……」

 急いで上体を起こし、深呼吸する。躊躇している場合でないのはわかっているが、それでも尋常でないくらい緊張しているのだから始末に負えない。だが、ここで出なければ二度目はないような気がして、意を決して通話マークに触れた。

「……っ」

 耳に受話口を押し当てた瞬間、声にならない声とともに涙がにじんだ。
 そこに感じる気配にめまいがする。なにを言われるのかと思うと、恐ろしくてたまらない。

『……涼子』

 聞こえてきたのは、まるで後ろから包みこんでくれているかのような、最も愛しい男の穏やかな声だった。溢れ出す生温かいしずくが、ひざの上で握りしめている左手を濡らしていく。

「……ごめ、なさっ」

 涼子は震える声を絞り出した。

 真耶を失わせてしまった。自分だけが生き残ってしまった。そして、なにも知らずに西嶋を愛してしまった――。様々な想いが、やむことを知らない土砂降りの雨のように際限なく襲ってくる。

「ごめんなさい……」

 謝ってもどうにもならないとわかっている。それでも、唇からはその一言が何度もこぼれた。

『もういいんだよ、涼子。もう謝らなくていい』
「どうして……っ」

 やはりすべてを承知しているようなその口ぶり。言いたいことは山ほどあるはずなのに、なぜこの男はこんなにも優しい声で話すのだろう。そんな疑問が頭をよぎった直後、心にはある激情が沸き起こった。

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