この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
琥珀色に染まるとき
第14章 MY FOOLISH HEART

***
手のひらの上でなにかが振動していることに気づき、薄く目を開ける。部屋の中は暗闇に包まれている。
あのままリビングのソファーで眠っていたらしい。どうりで肌寒いと思ったわけね、と思い、涼子は苦笑した。意識がはっきりしないまま、震え続ける携帯電話の画面を見て、一気に目が覚めた。
「え……」
急いで上体を起こし、深呼吸する。躊躇している場合でないのはわかっているが、それでも尋常でないくらい緊張しているのだから始末に負えない。だが、ここで出なければ二度目はないような気がして、意を決して通話マークに触れた。
「……っ」
耳に受話口を押し当てた瞬間、声にならない声とともに涙がにじんだ。
そこに感じる気配にめまいがする。なにを言われるのかと思うと、恐ろしくてたまらない。
『……涼子』
聞こえてきたのは、まるで後ろから包みこんでくれているかのような、最も愛しい男の穏やかな声だった。溢れ出す生温かいしずくが、ひざの上で握りしめている左手を濡らしていく。
「……ごめ、なさっ」
涼子は震える声を絞り出した。
真耶を失わせてしまった。自分だけが生き残ってしまった。そして、なにも知らずに西嶋を愛してしまった――。様々な想いが、やむことを知らない土砂降りの雨のように際限なく襲ってくる。
「ごめんなさい……」
謝ってもどうにもならないとわかっている。それでも、唇からはその一言が何度もこぼれた。
『もういいんだよ、涼子。もう謝らなくていい』
「どうして……っ」
やはりすべてを承知しているようなその口ぶり。言いたいことは山ほどあるはずなのに、なぜこの男はこんなにも優しい声で話すのだろう。そんな疑問が頭をよぎった直後、心にはある激情が沸き起こった。

