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琥珀色に染まるとき
第14章 MY FOOLISH HEART

「……会いたい」
気づけばそう呟いていた。耳元にある彼の気配に吸い寄せられるように。
「西嶋さん……」
こぶしを握りしめ、その名を呼んだ。金縛りに遭うかのように硬直する身体。それ以上は言葉が続かなかった。
永遠に続くような沈黙に包まれ、息をするのも忘れて彼の言葉を待った。
『ああ……俺もだ』
鼓膜を撫でる甘く切ない低音が、右耳からじわりじわりと浸透して全身を溶かしていった。流しつくしたはずの涙は、あとからあとから溢れてくる。
『どこにいる?』
不意に、痺れるほどの低い声に問われた。
「あ、もう家に……」
そう答えながら、“会いたい”などと勢いで発言した自分を恥じる。今からどこかで会うのは迷惑だろうし、かといって人目のある場所では話さえまともにできないだろう。
もはや話をするだけで満足できるほど冷静でいられなくなっている。だからこそ今夜は諦めるべきだと、必死に考えを整理する。
自分の結論に自分で勝手に落胆していると、予想外の言葉が返された。
『わかった。今から行く』
「えっ、でも佐伯さんたちは」
『そういうことはあえて聞かないもんだ。じゃ、あとでな』
それを最後に通話は切られた。
無音になった受話口を耳に当てたまま、呆然とする。考えなくてはならないことがたくさんある気がするのに、もういくら考えてもまともな結論を出すことはできない気がした。
焦がれる気持ちを抑えられそうにない矛盾した自分を認めた今、できるのはただ一つ。会いにきてくれる西嶋を迎え入れることだ。

