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琥珀色に染まるとき
第14章 MY FOOLISH HEART

ほう、とため息をついたところで、あらためて部屋の暗さに気づいた。リビングの電気を点けると、無駄なものがいっさいないシンプルなインテリアが目に入る。
こんな色気のない部屋に男を招き入れていいのだろうか。初めて西嶋と結ばれたホテルでの夜のこと、そして、彼の部屋で激しく愛し合った日のことを思い出す。
ため息が出るほど、甘く濃密な時間。つい昨日のことのようにも、ずいぶん昔のことのようにも思える、幸福な瞬間。まるでそうなることが決められていたかのように導かれ、突き動かされ……。
そうして、あとになって知った、哀しい過去の記憶。互いの想いを確かめ合う前に、真耶と彼の繋がりを知っていたら、なにかが変わっていたのだろうか。
「怖いの?」
自問し、苦笑する。寝室に行き、雨に濡れたスーツを脱いでハンガーに掛けた。
身体に染みついた雨の匂いを熱いシャワーで洗い流していると、不意に優しい声がよみがえった。
――もういいんだよ、涼子。
彼はすべてを知っている。いつから気づいていたのか、気にならないといえば嘘になる。それでも、すべてを知りながら会いにきてくれることに彼の想いが込められていると信じたい。
二人の間に佇む事実は、一つ。だが真実は、互いの中に生まれた揺るぎない心だ。
彼はあんなに優しく応えてくれたではないか。あの綺麗な瞳を見ればわかる。きっと、嘘のないまなざしで穏やかに微笑んでくれる。それが自分にとってなによりの真実だ、と涼子は強く思った。

