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琥珀色に染まるとき
第14章 MY FOOLISH HEART

バスルームを出て、簡単に乾かした髪をまとめ上げる。はげかけの化粧は、直すとかえって汚くなるのでそのままにした。
そろそろ着く頃かと思い、薄手のニットにジーンズを履いて部屋を出た。玄関を開けると、冷んやりとした空気が肌をかすめ、激しい雨の音がダイレクトに耳に響いた。
今までは、この音を聞くのが怖くてたまらなかった。それなのになぜだろう、今夜の雨には打たれたいとさえ思う。自らに降りかかるものすべてを受け止めたいと感じている。
エレベーターで一階に降り、エントランスを抜けた。あたりを見まわすが、なんの気配もない。当然ながら、城戸の車もなかった。
涼子は大切な仲間に向け、ごめん、と心で小さく呟いた。おそらく彼は、明日もいつもと変わらぬ態度で接してくれるだろう。それがわかっているから、余計自分が情けない。
遠くで雷鳴が轟き、地面を叩く雨音が激しくなった。
エントランス屋根の下で待つこと十分。携帯の画面を確認するも、新たな着信やメールはない。
仕事で鍛えられたおかげで人を待つことなどなんとも思わなかったのに、会いたくてたまらない相手を待つ時間は、これほどにも長いのかと痛感する。いよいよ、肌寒さに伴って寂しさが増してきた。
身震いしながら小さく願ったとき、車のヘッドライトがこちらに向かってくるのが見えた。思わず、雨の中に一歩踏み出す。やがて一台のタクシーがマンション前に停まり、後部座席のドアが開くと、一人の男が降りてきた。
街灯に照らされたその姿を見た瞬間、せっかくおさまっていた涙が再び溢れて視界がぼやけた。雨に濡れながらそのまま立ちつくしていると、腕を掴まれ、建物内に引き戻された。
「なにやってるんだ、お前」
西嶋が、身をかがめて顔を覗きこんでくる。眉間にしわを寄せ、端正な顔立ちが少しだけ歪んでいる。

