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琥珀色に染まるとき
第15章 A TIME FOR LOVE

あれから明美は、小林の話をまるでなかったことのようにいっさい口に出さない。涼子にも裁判の結果を知らせてきた以降、連絡の頻度は低くなったという。
景仁も、明美の精神面やほかの客に悟られる恐れを考慮して、積極的には聞かないことにしていた。なにより、ストーカー被害者に関して敏感になりすぎる傾向にある、涼子に対しての配慮でもあった。
そんな中、藤堂は、明美と小林が男女関係にあったことを明美本人から聞き出した。彼女の好意をうまく利用し、自ら語るよう仕向けたのだろう。
彼女の不可解な言動を不審に思ったのは藤堂も同じだったようで、あれ以来、汚れ役を引き受けてくれている。
「明美さん。最近の生活はいかがです?」
「うん。もうすっかり元どおり」
「そうですか。……もう、怖くはないですか」
静かに尋ねると、明美の瞳がきらきらと輝いた。
「心配してくれてるの?」
「ええ。大切なお客さまですから」
「あはは、嬉しい」
ふと、明美はなにかを思い出したように表情を曇らせた。
「あいつ……もう懲りたよね。このまま二度と私の前に現れないでほしい」
最後は語気が少し荒くなった。そこに怯えは感じられないが、あの男に対する怒りは消えていないようだ。
「前にもね、似たようなことしてくる人がいたの」
ぽつりとこぼされた告白。たしかに夜の街にそういう話はつきものだ。水商売は、いわば仮想恋愛の世界。客をいい気分にさせるのが仕事といっても過言ではないから、ときには恋人のように甘えた言動で気を引くこともある。それで客が勘違いし、ストーカー行為に走ることもしばしばあるのだ。

