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琥珀色に染まるとき
第15章 A TIME FOR LOVE

「でもこの仕事はやめなかった。けっこう好きなんだよね。世間的には格下に見られるけど」
「やりがいを感じられる仕事に格上も格下もありませんよ。明美さんらしく働けるのであれば、それが一番いいと思います」
「さすが、夜の世界を知ってる人は違うね。やっぱり私、好きだなあ、マスター」
こうやって上目遣いで谷間を見せつけられ、藤堂はどう思っただろうか。
それほど親しくない人間からストーカー行為を受けた人の心理を学んだわけではないが、深く関わりがない分、相手がどういった行動に出てくるかわからない恐怖感を少なからず抱くものだろう。景仁自身、そういった経験がないわけではない。それが明美からはまったくといっていいほど感じられないのだ。
仕事、そして自分自身に対するプライドは高いが、男に関しては見境がない――。明美には、まだ涼子には見せていない顔がある。
いくら取り繕っても景仁にはわかる。クローゼットに無理やり押しこまれた荷物が扉を開けたとたんに崩れ落ちてくるように、嘘で固めた秘密もいつかは隠し場所を失い、扉を開けた者を雪崩のように襲うのだ。
その扉を開けるのが涼子であってほしくはない。藤堂がうまくやってくれているといいが、そろそろ旧友ばかりに負担をかけてもいられない。
「私ね、涼子さんみたいな人に憧れちゃうの。強くて格好いい女って感じ」
「明美さんも十分強い女性ですよ」
涼子は君が思うよりずっと繊細だよ、とは言わないでおく。
「ええー。こう見えて弱いところもあるんだからね」
不自然なほどにふっくらとした唇を尖らせるさまを見ながら、景仁はこの場にいない愛おしい女を想った。

