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琥珀色に染まるとき
第15章 A TIME FOR LOVE

――一ヶ月半前のあの日。
シャワーを浴びたあと、いい匂いに誘われて部屋に戻ると、ダイニングテーブルには温かな光景が広がっていた。涼子が朝食を作ってくれていたのだ。意外にも、和食を。
カウンターキッチンの奥から顔を覗かせた彼女の柔らかな微笑みを見たとき、思わず早まったことを口走りそうになった。胸に湧き上がる想いをどう表現したらいいか考えながらも、黙々と箸を進めた。『和食嫌い?』と不安げに尋ねられてしまうくらい、黙々と。
美味かった。ひかえめな味つけが彼女らしかった。だしの効いた味噌汁を一口飲んだ瞬間、またばかなことを言いそうになり、自分の単純さに呆れた。
「マスター?」
その声で我にかえると、不思議そうに首をかしげる明美と目が合った。
「ええ。スコーピオンですね。お待ちを」
「なんだ、聞こえてたの。真剣な顔して黙っちゃうから、考え事でもしてるのかと思った」
的を得た言葉に苦笑しそうになるのを抑え、景仁は柔和な笑みを返した。
そのとき、入り口の扉が開いた。
「いらっしゃい」
入り口に佇む大柄の男に声をかけると、どうも、とぶっきらぼうに返される。その挑むような視線の正体を、景仁は直感的に予想した。
男の陰に隠れるようにして店に入ってきた女の姿が、その予想を確固たるものにした。
あの日、電話口から聞こえてきた声がふとよみがえる。
――東雲を傷つける野郎は俺が許さない。
あきらかに敵意を含んでいたそれ。少々子供っぽい、しかし率直な想いを孕んだするどい声だった。
年甲斐もなく嫉妬している自分に、景仁は気づいていた。単にその真っ直ぐな若さに対してなのか、同僚として無条件に涼子のそばにいることを許される立場に対してなのか、あるいはその両方か。

