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琥珀色に染まるとき
第15章 A TIME FOR LOVE

「あ、城戸さん。と、涼子さん」
「明美さん……こんばんは」

 ぎこちなく微笑んだ涼子は、こちらには目を向けようとしない。

「あいかわらずコンビなんだね」
「俺、こいつと組むのが一番やりやすいんだよ」

 子犬のような顔に親しみやすそうな笑みを浮かべ、城戸という男は言った。そのあからさまな態度の変化に、驚くどころか笑ってしまいそうになる。だが明美の心はしっかり掴んだらしく、彼女は嬉しそうに彼らを誘う。

「一緒に飲もうよ。マスター、二人ここに座ってもいい?」
「もちろん。どうぞ」

 藤堂がよく座る、入り口に一番近い席を残して次の席に座っている明美。その隣に涼子、そして城戸が腰かけた。
 涼子はまだ目を合わせようとしない。その真意はわからない。

「なににしましょうか」

 おしぼりを手渡しながら尋ねる。涼子が受け取ろうと手を伸ばしたとき、ほかの二人には気づかれないようにそっと指を撫でた。静かに反応する冷たい指。
 しかし、彼女は一瞬切なげな視線を送ってくるだけで、すぐに俯いてしまった。必死にごまかそうとするその姿がなんともいじらしい。
 店を閉めてから一緒に過ごす予定の女が、イブの夜にわざわざ同僚の男を連れてくる意図はなんなのだろう。

「俺は、ジンフィズをお願いします」
「かしこまりました」

 笑顔で答えながら、なるほどね、と心の中で呟く。
 ジンフィズは、ドライジンにレモンジュースと砂糖を加えシェイクしたものを氷入りのグラスに注ぎ、ソーダ水で満たしてステアする。見た目はなんの変哲もないロングカクテルだが、カクテル技法の基本をすべて使う必要がある。
 シェイクやステアの技術だけでなく、ジンの種類、レモンや砂糖の配合、氷の大小、ソーダの分量と注ぎ方……美味く作るポイントは多々あり、難しい。それゆえ、バーテンダーの力量を測ることができるカクテルといわれる。

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