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琥珀色に染まるとき
第15章 A TIME FOR LOVE

要するに、腕試しだ。もはやバーテンダーとしての技量ではなく、“涼子の男”としての器量を試す目的としか思えないが。
涼子はそんなことをほかの男に提案するような女ではないから、城戸が勝手に、“初めて行く店でジンフィズを頼むとバーテンダーに嫌がられる”だとか、“通っぽい”というネタをどこかで仕入れてきたのだろう。
「私は、ラガヴーリン十六年を……」
「飲み方はいつもどおり?」
優しく尋ねてやると、返事のかわりにその口元がわずかにゆるんだ。その隣で、明美が感嘆のため息をつく。
「涼子さん、やっぱり渋いね。イメージどおり」
「俺は無理だ。薬みたいな匂いなんだろ?」
「城戸くんはココアが好きだものね」
「ぷっ、可愛い。イメージと違う」
涼子の冷静な反撃に噴き出す明美。うるさいな、とふてくされる城戸を横目に、涼子は静かに追い討ちをかけた。
「ジンフィズじゃなくて、カカオフィズにしたほうがよかったんじゃないの」
その爆弾で腹の底に沈めていた笑いがこみ上げ、シェイカーを振りながら腹筋が震えた。ふだんからこんなふうに親しいやり取りをしていると思うと少々妬けるが。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
固い声を返した城戸は、透明な液体の中を無数の細かい泡がしゅわりと昇るグラスを神妙な面持ちで口に運び、ごくりと一口飲んだ。
「……うめぇ」
注意していなければ聞き逃してしまうほどの、小さな呟きだった。
「それはよかった」
はっと顔を上げた城戸に見据えられる。微笑んでやると、今度はたしかに聞こえるように言い直された。
「美味いです」
「そうかい。嬉しいよ。ありがとう」
「あ、いや、こちらこそ」
砕けた口調で返されたのが予想外だったのか、城戸は目を丸くして言った。

