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琥珀色に染まるとき
第15章 A TIME FOR LOVE

グラスの中身をまじまじと見つめるその目は、戸惑いを孕んでいる。
「バーで飲む酒がこんなに美味いとは……」
「それは最高の褒め言葉だ」
穏やかな気分で答え、口角を上げる。すると、こちらに視線を移した城戸が満足そうな笑みを見せた。肩の荷が下りたようなその表情。これまで挑戦的に見えていたそれは、緊張でこわばっていただけなのかもしれない。
いったい、どんな意地悪オヤジを想像していたのだろう。澄ましたバーテンダーに嫌味を言われるとでも思っていたのだろうかと、心の中で苦笑する。
もとよりそんな気もなければ、売られた喧嘩を買うつもりも毛頭ない。単純に、この若造にも美味い酒と心地よい時間を愉しんでほしいだけだ。
ジンフィズを飲み干した城戸は、帰る意思を示した。
「ごちそうさました。また美味い酒飲ませてください」
「喜んで」
涼子は当然帰らないようで、お疲れ様、と城戸に一声かけただけで、再びウイスキーに向き直る。そのことにほっとしている自分に気づいた景仁は、静かに自らを嘲笑した。
会計が済むと、城戸は扉の前までゆっくり歩き、振り返った。
「じゃあ、東雲のこと頼みます」
「ああ」
意味深な台詞と爽やかな笑顔を残し、城戸は丁寧に一礼して出ていった。その背中を見送りながら、彼が最も伝えたかったことは最後のそれなのだろうと思った。なにがあっても涼子を哀しませるな――そういうことだろう。男同士の約束だ。
「さっきの城戸さんが言ってたのって、どういう意味?」
「え」
「涼子さん、マスターとそういう関係なの?」
明美は、涼子の肩を揺すりながらしつこく聞き続けている。あまり機嫌がよろしくないようだ。

