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琥珀色に染まるとき
第15章 A TIME FOR LOVE

「あのね、明美さん……」
「マスターに彼女ができたって噂、相手は涼子さんだったの?」
「あ、そのカクテル……美味しそうね」
「ねえ、いつそうなったのよ」
ほかの客を気にして極力声を抑えながらも、明美はまるで責めるような口調で食い下がる。そんなふうに詰め寄られて、涼子は本気で困り果てた表情を浮かべている。
「それ、スコーピオンというカクテルだよ」
景仁の唐突な言葉に、二人の女は同時に顔を上げた。
「次はそれにする?」
「あ……えっと」
「涼子さんもマスターの瞳に酔わされちゃうんだ……はあ、ショック」
瞳ではなく酒に酔わされた明美が不満そう言う。その意図を測りかねて困り顔で首をかしげる涼子に、彼女は説明を続けた。
「瞳で酔わせて、っていうカクテル言葉があるんだよ。お酒に詳しいマスターファンはみんなこれ頼むの。暗黙のルール。涼子さん、知らなかったの?」
「うん……知らなかったわ」
「じゃあどうやって取り入ったの」
景仁は思わず舌打ちをしたくなった。こういう女は、どいつもこいつも内輪の噂話が好きで、“暗黙の了解”が大好物だ。誰が作ったかもわからないルールを涼子が知らなかったからといって、それがいったいなんだというのか。
だが、唇を尖らせる明美からこちらに目を向けた涼子は、少し考えるそぶりを見せたあと、思いもよらぬことを口にした。
「じゃあ、私もそれを……」
「ん?」
「その、スコーピオンを」
真意のわからない、深く色づいた魅惑的な瞳に見つめられる。
涼子は手にしたグラスを唇に寄せ、傾けた。ラガヴーリンの濃い琥珀色が彼女へ流れこんでいくさまを見ているうちに、今すぐにその赤く潤う唇に触れたくなった。

