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琥珀色に染まるとき
第15章 A TIME FOR LOVE

 それから、いっこうに現れない藤堂を諦めた明美は、不機嫌そうに帰っていった。その派手な背中を見送ったあとも、絶えずやって来る客たちの有意義な時間を見届けた。

 そして、ちょうど客足が途切れた今、カウンター席に座っているのは涼子しかいない。いつ新たな客が入ってくるかわからない、二人だけのささやかな時間だ。

「めずらしい光景だな。お前がウイスキー以外を飲むなんて」

 涼子の前には華やかなトロピカルカクテルが佇む。トパーズのような黄金色の液体に満たされたゴブレットに、カクテルピンに刺したカットオレンジとマラスキーノチェリーが飾られている。
 どう考えても自発的なオーダーではなかったが、それを見る彼女は頬を染めて微笑んだ。

「今日は特別だから……」
「クリスマスだから?」

 彼女は質問に答えないかわりにグラスを手に取り、指を添えたストローを唇で挟む。その色っぽい喉の奥へと、“サソリの毒”を流しこんだ。美味しい、と一言こぼして柔らかく微笑むと、細い手首に巻かれた腕時計に目を落とす。
 これが最後の一杯――そう言いたいのだろうか。

「あと五分」
「ん?」
「もう少しで、日付が変わるわ」
「ああ」

 遠慮がちな視線とともに、彼女は呟いた。

「……三十一歳になるの」

 別に嬉しくないけど、と俯き気味に言いながらストローを指で弄る。

「誕生日なのか……」

 独り言のような声が漏れた。なぜ今まで黙っていたんだという疑問と、それ以上に、どうしてそれくらい聞いておかなかったんだという自責の念に駆られる。

「悪かった」
「ううん。私が言わなかったから」

 彼女は穏やかに、ゆっくりと語り出した。

「城戸くんにね、そんなに会いたいなら、気にしないで店に行けって怒られたの。それで、昨日のこともあったし、俺も一緒に行くって言い出して」

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