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琥珀色に染まるとき
第18章 白い靄の中に

「なによ」
「いや、好きだよ。お前によく似合う」
「いまさら褒めてもなにも出ないからね」
「そりゃ残念だ」
「……ねえ」
「ん?」
「…………」
「なんだよ」

 呼んでおいてなにも話し出さないことを怪訝に思ったのか、それともおもしろがっているのか、西嶋が吐息混じりに尋ねてくる。耳たぶに軽く歯を立てられ、身体の奥でぞわりと火が灯るのがわかった。

「……やっ」
「なんですか」

 やはり、おもしろがっている。意地悪な男だ。
 耳の穴に直接吹きかけるように囁くのをやめて、と言いたいのに、唇から漏れるのは甘いため息ばかり。このままでは会話にならないどころか、別の声を交わすことになりそうだ。
 腹に添えられた大きな手はその場を動かない。耳元で発せられる声と息だけで、こうも反応するものだろうか。敏感体質なのかと自分を疑いたくなるが、きっと相手が西嶋でなければこうはならない。

「……あのね」
「うん?」
「ずっと聞こうと思ってたんだけど、なかなか聞けなくて」
「うん」
「景仁さん、ご実家は……」
「ああ、出身地のこと?」

 特に警戒したり躊躇したりすることなく、彼はさらりとその言葉を口にした。

「景仁さんの瞳、ちょっと翠の入った茶色でしょう? だからどうとかそういうんじゃなくて、単純にただ知りたいだけなの……」

 いいわけじみた補足をしてしまう自分を心の中で罵っていると、それまで静かに聞いていた彼が噴き出した。

「そんなに深刻な話じゃないし、そんなに気を遣わなくていい」

 涼子が両親のことを打ち明けて以来、二人とも家族について踏みこんだ話をしたことはなかったから、彼も意識的に避けていると思っていたが、特に隠していたわけではなさそうだ。

「グラスゴーは知ってるか」

 その地名を耳にしたとき、驚きと同時に、胸につかえていた異物がすっと消えていくような気がした。

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