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琥珀色に染まるとき
第18章 白い靄の中に

「グラスゴーって、スコットランド?」
首をひねって尋ねると、彼は優しい笑みを浮かべて頷く。
「生まれてから十一歳までグラスゴーで過ごした。父親は日本人で、母親がスコットランド人。母が二十五のとき、エンジニアとしてグラスゴーに在住していた当時二十九歳の親父と結婚して、翌年生まれたのが俺だ。幼い頃から親父とはよく日本語で話していたから、日常会話くらいは理解できた。自分が日本とスコットランドのミックスだということもな。それなのに日本へ行ったことすらなかった景仁少年は、猛烈に日本という国に興味を持った」
頭上で発される心地よい低音と、背中に伝わるぬくもり。涼子はそっと目を閉じ、西嶋の幼少期に想いを馳せた。まぶたの裏に映る大人の男に、見たこともない少年の面影を重ねてみる。
「好奇心旺盛な、とっても可愛らしい男の子だったのね」
「いや、それは弟のほうだな」
「弟さんがいるの」
「二歳下にな。俺はわりとおとなしかったよ」
「冷めてたってこと?」
頭に、ごん、と顎が乗せられた。
「痛い……」
鼻で笑った彼が話を続ける。
「それでも、自分の中に確実に流れている日本人の血を実感したかった。ガキなりに。それから親父の仕事の都合で日本に戻ることになって、十二の時に念願の日本に移り住んだ。すべてが新鮮で、でも懐かしいような、不思議な気分だったよ」
その懐かしげな声色に優しい笑みの気配を感じ、涼子は頬をほころばせる。
「中学では初めこそめずらしがられたが、俺が日本語を話せたからかすぐに受け入れられた。あらかじめ漢字を学んでおいたのがよかったかもしれないな。それで順調に高校にも進んだ」
「あ、それで……」
「藤堂とは二年のときに同じクラスだった。当時から無愛想な奴だったよ」
「ふふ」

