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琥珀色に染まるとき
第18章 白い靄の中に

腹に添えられている彼の手に、涼子は自分の手を重ねた。自然と指が絡められる。
「そのあと、俺の大学進学を機に両親だけが再びグラスゴーに移ったんだ。俺は日本を離れる気はなかったから」
「その頃からこっちで就職するって決めてたの?」
「ああ。それは両親も勘づいていて、俺が日本国籍を選ぶこともわかっていたみたいだな」
「そっか……二重国籍は日本じゃ認められていないものね」
「成人を過ぎたら選ばないといけないんだ」
黙って頷くと、苦笑混じりの声が落とされた。
「しかし一つだけ誤算があった」
「誤算?」
首をひねって見上げれば、伏せた長いまつげに縁取られた綺麗な瞳に見下ろされる。
「親父と同じように技術者の道に進むつもりが、まさかバー業界に飛びこむとはな」
そう言って、彼はまた苦笑した。
「でも親父は笑ってたよ。やりたいようにやれって」
「息子が自分から情熱を持って、なにかに夢中になったのが嬉しかったのね」
「ああ。その頃の俺はチャラチャラしてたから」
「チャラチャラって……ふふ」
「なにかを極めることに魅力を感じていなかった」
「今とはぜんぜん違うのね」
耳を甘噛みされ、腹をまさぐられる。
「……っ、お母さまは、お仕事のことをなんて?」
「ああ、仕事には理解を示してくれているよ。ただ離れて暮らしている分、なかなか会えないことは不満らしい」
「寂しいのよね……きっと」
「まあでも、弟がロンドンにいるから」
「そう」
「建築関係の仕事をしてるんだ」
「ふうん」
なにげなく振り向いて、耳元にある彼の唇を人差し指でなぞると、その奥にひそんでいた白い歯にやわく噛まれた。指先を濡れた舌先がかすめ、全神経がぞわりとそこに集中する。
「ん……」
思わず漏れる色めいた声。ふっと目を細めた彼は、指を解放してくれた。

