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琥珀色に染まるとき
第3章 出会いは静かな夜に

 不意に、視界の端に西嶋が入りこみ、目が合った。さきほどは気づかなかったが、よく見るとその瞳は変わった色をしている。緑と薄茶が混ざったような――ヘーゼル、というのだろうか。薄暗い照明の中では目を凝らさないとわからない。

 突然、佐伯に肘でつつかれた。

「涼子ちゃん。そんなに睨みつけたらマスターの顔に穴が開くわよ」
「え? あ……」

 まじまじと観察してしまっていたらしい。すみません、と謝ると、西嶋はふっと口角を上げた。

「構いませんよ。それより、涼子さんの好みをもう少しお聞きしてもいいですか」
「はい。ええと、スモーキーで……」

 そこまで言って我にかえり、口をつぐんだ。西嶋の背後に構えるバックバーを眺めていたから、ついウイスキーの好みを口にしてしまったのだ。
 それを見抜いていたとでもいうように、彼はにこりと微笑む。

「ウイスキーがお好きで?」
「ええ。たまに飲みます」
「そうですか。今日お出しできなくて残念です」
「私も……残念です」

 “次回”がありそうな言いまわしに、同じ言葉を返してしまった。うまく誘導されたのだと思うと気恥ずかしくなる。
 それを顔に出さないようにして、涼子はそっと西嶋から視線を外した。彼が作業を始めると、その長い腕と指が織りなす繊細で無駄のない動きを、またそっと見つめた。

 その形貌を見る限り、なかなかの長身だ。暗灰色のシャツ、光沢のある黒ベストにネクタイ、というシックな装いがよく映えている。
 色素の薄い髪は地毛なのかわからないが、長めの前髪を流すシンプルなスタイルが清潔感を漂わせる。首を少し前に傾ける横顔は端麗で、それでいてどこか男の色気も感じさせ、女性の美しさを凌ぐのではないかと思わせる。

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