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琥珀色に染まるとき
第3章 出会いは静かな夜に

同年代くらいに見えるが、それにしては妙な落ち着きがある。物腰は柔らかく、人に安心感を与える空気を醸し出している。
やはり不思議なのが、その瞳の色だ。ヘーゼルの瞳を持つ日本人は九州地方に多くみられると聞いたことはあるが、その顔立ちからすると、純粋な日本人とはとうてい思えない。
見れば見るほど年齢不詳、国籍不明な容姿に戸惑うしかないが、これ以上考えても仕方ないし、わざわざこちらから聞く気もない。
西嶋は、ミキシンググラスに入れたカクテルの材料を、氷の触れ合う音一つ立てずにステアする。撫でるようなバースプーンの回転が美しい。
巧い、と涼子は思った。
バーテンダーといえばシェイカーを振っている姿をイメージしがちだが、バースプーンでかき混ぜるだけの一見地味なステアは、バーテンダーの腕の良し悪しがはっきりとわかる技術だ。これが上手くできないと、水っぽいカクテルになる。
右から視線を感じた。見れば、佐伯が苦笑を浮かべている。
「涼子ちゃん。いくら勤務中でも、そんなに静かにしていなくていいのよ?」
「佐伯さんを無事ご自宅にお送りするまでは気が抜けませんので」
「あらやだ、そんな怖い顔で……せっかく美人なのに。藤堂、あなたも黙ってないでなにか言いなさい」
藤堂は薄く笑むと、視線をこちらに動かすことなくゆっくりと口を開いた。
「その真面目で冷静で、頑固なほどにストイックな勤務態度に惚れこんだのは、社長です」
「皮肉っぽい言い方はやめなさい、堅物男。全身黒ずくめだけれど、おなかも真っ黒なのね」
「そんな腹黒い男を信頼し、五年以上そばに置いているのは誰です?」
「私よ。文句ある?」
「いいえ」
「当然ね」

