この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
琥珀色に染まるとき
第18章 白い靄の中に

「一緒に会いに行こうか」
「え?」
「両親に」
「……えっ! 」
涼子は勢いよく振り返った。高い声が静かなバスルームにこだまする。
さすがの西嶋も一瞬目を見開き、やがて困ったように笑い始めた。無造作にかき上げられた濡れ髪から滴るしずくが、彼の色気を強調している。
「嫌か?」
「そうじゃないけど……」
だったらなんだと言わんばかりの綺麗な瞳にとらわれ、逃れるように身体の向きを前に戻す。
「あれ……本気だったの?」
「ん? ああ」
曖昧――ともとれる、短い返事。
あのとき、西嶋はたしかに、左手の薬指に触れ、撫でた。だが明確な言葉をくれたわけではない。早まらないで、と自分に言い聞かせる。
「涼子」
「ちょっと待って……」
思わぬ展開に気持ちがついていかず、もう振り向くことができない。彼は今どんな気持ちで、どんな表情でいるのだろう。
そろそろのぼせるかもしれない、と思ったとき、左手を取られた。手の甲に口づけられ、薬指の付け根を優しく噛まれる。細くても重要な性感帯を刺激されて首をすくめると、ふっ、と穏やかな息をこぼされる。
ひかえめに振り向いて目を合わせれば、綺麗なヘーゼルの瞳が優しげに揺れた。
「お前のことをもっと教えてくれるか」
「……うん」
「俺のことも知ってくれ」
その言葉にもう一度同じ返事をしてから、小さく深呼吸をし、意を決して呟く。
「真耶さんの、ことも……」
涼子がその名を口にしても、西嶋が驚きや戸惑いの反応を見せることはなかった。
「知りたい?」
「うん」
はっきり答えると、そうか、と返した彼はいつものように優しく微笑んだ。
「涼子」
その低音を合図に、ゆっくりと身体の向きを変える。彼の手に腰を支えられ、向かい合った。

