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琥珀色に染まるとき
第3章 出会いは静かな夜に

「……ふふっ」
涼子は、小さく噴き出した。社長と秘書の息の合ったやりとりがおかしく、なぜかほほえましくもあり、つい、だ。急いで唇を引き結ぶが、もう遅い。
椅子の背もたれに身を任せる佐伯の満面の笑みと、前かがみでカウンターに片肘をつく藤堂の氷の微笑が、同時に涼子をとらえた。当然ながら藤堂の目は笑っていないが、対照的に佐伯は声を弾ませる。
「やっぱり笑ったほうが素敵よ。あなた、実はけっこうモテるんじゃない?」
「いえ、そんなことはまったく」
「彼氏は?」
「いません」
「じゃあ、今までどんな人とお付き合いしてきた?」
「あ、あの……」
答えられない質問を連投され、全身がこわばる。最後に誰かと交際したのはいつだったろう。悪意のない佐伯には申し訳ないが、恋愛話は涼子にとって最大のタブーであった。
「すっかり興味を持たれてしまいましたね。気をつけてください。理香さんはそういった話に目がありませんから」
上品な低音が降ってきた。視線を上げると、西嶋が優しく微笑んでいる。
カウンターに敷かれたコースターに、カットライムが飾られたコリンズグラスが置かれ、すっと目の前に差し出された。氷の入ったグラスを満たす液体は、モスコミュールを思わせる透明琥珀色――。
西嶋が言った。
「サラトガクーラーです」
礼を言って一口飲むと、辛口のジンジャエールとライムがぴりっと口の中を引き締めた。おそらくシュガーシロップをほとんど入れていないのだろう。
「美味しいです、とても」
「辛みが強すぎませんか?」
「いいえ。好みの味です」
「それはよかった」
「アルコールを入れていただきたくなります」
「それを狙って作りましたから」
そう言って、西嶋は口角を上げた。

