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琥珀色に染まるとき
第19章 面影との再会

 表情を変えず、物言わぬ墓石に淡々と語りかけるその横顔に、一筋の涙が伝う。やがてその筋を何粒ものしずくが通り落ち、ほんのり色づいたその白い頬を濡らした。涼子は花束を抱えたまましゃがみこみ、消え入りそうな声を絞り出した。

「ごめんなさい……」

 景仁は持っていた水桶を地面に置き、震える彼女の肩に優しく触れる。

「涼子」

 それ以上はなにも言わなかった。かける言葉がないのではなく、言葉にするまでもないのだ。背負っている想いは同じなのだから。

「真耶さん……」

 涙混じりの呼びかけに応えるのは、しんと静まりかえった墓地に冷たく吹き抜けていく風の音だけ。心が凍りつくようなこの空虚な瞬間を、景仁は幾度となく経験してきた。
 長い間、心の中を支配していた後悔と絶望。真耶の魂が眠るこの場所で繰り返した懺悔。護れなくてごめん、幸せにしてやれなくてごめん、と。濡れる頬を撫でる風は、いつの季節も冷んやりと湿っていたような気がする。

 過去には誰も戻れない。何度振り返っても、後ろに未来はない。そこにあるのは足跡だけだ。
 わかっていても、受け入れられなかった現実。もしあのとき、ああしていれば――何度も思い描いた非現実の物語。涼子も、そんなふうに人生をさまよっていたはずだ。

「俺はもう、あんな思いをするのはごめんだった」

 初めて誰かの前で吐露する、本音。
 俯いていた涼子がこちらを向き、おもむろに立ち上がる。穏やかな笑みを返してその肩を抱き、景仁は墓石に視線を戻した。

「誰かを失うつらさを味わうくらいなら、死ぬまで独りで生きていこうと思っていた。あの店を守って、自分以外の人間のために尽くして……それだけを心の支えに、ずっと独りで」

 視線を感じて見下ろせば、潤んだ瞳にとらわれた。

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