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琥珀色に染まるとき
第19章 面影との再会

「私も……」
呟き、声を詰まらせた涼子は、哀しげに目をそらす。
「私も、自分以外の誰かを護りたくて、ずっと独りで……」
彼女が選択したのもまた、自らを犠牲にし、他人の日常を守る人生だった。これ以上誰かを傷つけないように。これ以上自分が傷つかないように。おのれの幸福を拒否し続けることが、穴だらけのぼろぼろな心をなぐさめる唯一の方法だった。
「だけどな、涼子。それは違うよ」
「……っ」
反論しようと再び向けられた視線を受け止めながら、その肩を抱いている左手を外す。もう片方の手に持っていた線香入りの袋を、涼子に手渡した。
定期的に掃除されている墓に向き直り、柄杓で桶から汲んだ水を左右の花立てに流し入れると、彼女の腕に抱えられている花束を受け取る。
「逃げていたんだよ、幸せという現実から。そんな資格はないとか、誰かを愛して失うのが怖いとか、いいわけを並べて過去にしがみついていただけだ。真耶もきっとそれを望んでいると、自分に言い聞かせて」
腰を落として花束の包みを解き始めると、隣で黙って話を聞いていた彼女も同じように身をかがめた。その深い瞳を見据え、静かに語りかける。
「でも俺は、涼子に恋をした。過去の事実を知っても、気持ちは少しも揺るがなかった」
それがすべての答えであり、それ以外の幸福は考えられない。ならば過去の呪縛から互いを解放し、ともに哀しみを背負いながらも、先へ進まなければならないのだ。それが、生きていくということだから。
「俺とお前が生きているのは今だ。過去じゃない」
「…………」
「今の俺たちがしなければならないのは、過去の自分たちを責めることじゃない。互いの傷を舐め合うことでもない」

