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琥珀色に染まるとき
第3章 出会いは静かな夜に

 隣から、ため息が聞こえた。

「もう……うまくはぐらかされちゃった。涼子ちゃん、マスターに助けられたわね。この色男ってばいつもこんな具合で、私が根掘り葉掘り聞いてもなかなか口を割らないの」
「社長がしつこいからでは?」
「お黙り、堅物」

 佐伯はマンハッタン、藤堂はモヒートを思わせるノンアルコールドリンクを愉しみながら、再び言い争いを始めた。そんな二人を、西嶋は愉快そうに眺めている。

 佐伯の言うとおり、どうやら西嶋は助け舟を出してくれたらしい。さきほど響というホストの話を佐伯に振ったのも、彼女の気をそらすためだったのかもしれない。だとすれば、涼子の戸惑いや不快感を瞬時に把握したことになる。
 不覚だった――涼子は心の中で舌打ちをした。感情を表に出したつもりはいっさいなかったというのに、初対面の他人に心を読まれてしまった。

 しかしながら、相手は接客のプロ。ほんの些細な要素から客の気持ちを汲み取り、それぞれに合った酒と有意義な時間を提供するのが仕事なのだ。そういった意味では、依頼人の心情を理解し、危険を先読みしてサポートするボディーガードと似たところがあるのではないだろうか。当たらずといえども遠からず、かもしれない。

 そうやって心の中を整理しながらグラスを傾けていると、佐伯が妙なことを言い出した。

「だって、誰もが虜になる男の生態よ? 知りたいと思うのは当然でしょう。興味深い噂もたくさんあるし」
「……噂?」

 涼子の反応が思惑どおりだったのか、予想を上回ったのか、佐伯はとたんに自信ありげな表情になる。そして、内緒話をするように声をひそめた。

「そう。一歩足を踏み入れたら戻れない、泥沼のような――」

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