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琥珀色に染まるとき
第20章 ラスティネイルの夜

そのとき、カウンターの上に二つのカクテルグラスが差し出された。一つは、透明な液体にくすんだ緑色のオリーブが鎮座するマティーニ、もう片方は、赤みがかった琥珀色の中に沈むレッドチェリーが鮮やかな一杯。見た目はマンハッタンに似ている。
「ロブ・ロイでございます」
白いバーコートを身にまとった白髪混じりの紳士的なバーテンダーが、涼子の前にあるカクテルを紹介した。
「別名、スコッチ・マンハッタンです」
そう補足したロマンスグレーの老紳士は、その顔に刻まれたしわをより深くして微笑む。すると、藤堂が苦笑した。
「それも嫌味ですか?」
「さあ、どうかな」
親しげな二人の会話を聞きながら、バランタインをベースに作られたロブ・ロイを頂く。
「はあ……美味しい」
「それはよかった」
その返答と柔らかい物腰に、どこか懐かしい、見慣れた光景を眺めているような不思議な気分になる。その違和感は、藤堂の発言によってすぐに解消された。
「彼は西嶋の師匠だよ」
「え……」
「名乗るのが遅れまして申し訳ありません。榊と申します」
そう言って優しく微笑む姿を目の当たりにすると、驚きの中にも妙に納得したような気分になる。
「あなたが涼子さんですね」
「私のこと、ご存知で?」
「ええ。と言っても、知ったのはついさきほどですがね」
状況が把握できず、黙って榊(さかき)を見つめると、静かに流れるスタンダードジャズをバックに、彼は心地よいかすれ声でゆったりと語り始めた。
「十八時の開店直後でした。景仁が現れたのは」
ときどきふらっと寄っていくんです、と嬉しそうに言う。涼子が黙って聞き入っているのを確認し、彼は続けた。
「今まではね、ザ・マッカランをベースに作ったラスティネイルを飲んでいたんです。真耶さんが一番好きな飲み方でした」

