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琥珀色に染まるとき
第20章 ラスティネイルの夜

 悪意などまったく含まない声で、彼はたしかにそう言った。その名を耳にした瞬間、昨日の霊園での出来事がまざまざと思い出される。

「……真耶さんは、こちらの常連だったのですか」
「ええ、そうです」

 榊はどこまで知っているのだろうか。その疑問を心に残したまま、彼の話に耳を傾ける。

「景仁の奴はいつもなにも言わないので、私が勝手にそうやって出していたわけなのですがね。それが今日は、めずらしく違うものを頼まれたんです」

 榊はにっこりと笑った。

「カリラをストレートで、と」
「…………」
「これはなにかあったなと直感しましてね。ちょっと問いつめてみたら、景仁はあなたのことを話してくれました」
「そうですか……」

 なんと言えばいいのかわからずに口ごもると、榊はふっと柔らかく微笑んだ。

「あの男があんなふうに、惚れた女の話を私にすることなど今まで一度もありませんでした。私の弟子になってからもう十五年ほどの付き合いになりますが、初めてでしたから。まったく、驚きました。あいつもずいぶん丸くなったものです」

 静かに語る榊のすべての言葉を聞き逃さぬよう、涼子は息をひそめて耳を澄ませた。
 修行中の西嶋と、常連客の真耶――惹かれ合う若い二人と、それを静かに見守る榊の姿が想像できる。それはきっと、穏やかで、温かく、幸せな時間だったに違いない。
 決して嫉妬ではなく、しかし羨望でもない、ただ哀しい気持ちが胸に重くのしかかる。

 異変に気づいた榊は苦笑し、そして突然こう言った。

「初めて理性が効かなくなってしまった相手」
「え?」
「景仁はあなたのことをそう言いました。なにがあっても手放したくないと。それはそれは真剣な顔でね」
「……あいつが君にこだわるのは、過去のことがあるからというわけじゃない」

 突然、今まで黙ってマティーニを愉しんでいた藤堂が、榊に続いてそう言った。

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