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琥珀色に染まるとき
第3章 出会いは静かな夜に

「社長」

 鋭い声で話を遮ったのは藤堂だ。

「そろそろ東雲さんを解放してさしあげてください」
「なによ、藤堂のくせに偉そうに」
「私だからですよ。あなたのようなわがまま社長に面と向かって言えるのは、私くらいですから」

 ぴしゃりと言い捨てられ、佐伯はふてくされたように黙りこむ。そんな彼女がいつもの一杯として飲むマンハッタンは、“カクテルの女王”と称される、世界で最も有名なカクテルの一つだ。
 グラスの中で揺らめく赤褐色の液体に沈む、赤く色づいたチェリーが美しい。ニューヨークはマンハッタンの夕暮れをイメージして作られたというそのカクテルを、一日の締めとして馴染みのバーで堪能し、翌日にはまた社長の顔になる――。彼女にとっては儀式のようなものなのだろう。

 ライウイスキーでもカナディアンでもなく、バーボンをベースに選ぶあたり、彼女はその見た目と人間性にふさわしく、華やかではっきりとした味が好みらしい。
 カクテルピンに刺さったマラスキーノチェリーを口に運ぶそのさまは、形容しがたい女の色気を秘めていて、グラスを傾ける優雅な姿はさながらどこかの国の女王陛下のようだ。

「理香さん」
「なあに、西嶋くん」
「ほら、いつもの呼び方になっていますよ。ここでは名前で呼ばない約束でしょう?」
「あら、涼子ちゃんには自分から名乗ったくせに。あまりお客に本名を知られたくないと言っていたのはどこの誰かしら」

 佐伯に意地悪く指摘されると、西嶋は苦笑した。困ったなあ、という感じのとても優しい笑い方だった。

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