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琥珀色に染まるとき
第20章 ラスティネイルの夜

「いい女だ。そう直感することに勝る動機などありません。要は好みです。馬鹿だと思うでしょう?」
「馬鹿とは思いませんが、ずいぶん単純だなと」
思わずそう口に出した直後、隣で噴き出す声が聞こえた。目をやると、藤堂が腹を抱えている。
「西嶋に聞かせてやりたいよ」
そう言ってまた肩を揺らす藤堂に続き、榊が再び語り出した。
「男はね、案外そういうところは単純なものですよ。自分好みの女にはめっぽう弱い。景仁の奴もそろそろ四十ですし、自分の直感に素直に従うことにしたんでしょう。私もその選択には賛成です」
「好み……」
「そう。だから、あなたが誰かに引け目を感じる必要は、まずないということです」
そのときふと、耳に入ってきた藤堂の咳払い。笑いはすでにおさまったようで、その横顔は彼らしいお堅い表情を取り戻している。
「先に惚れたの西嶋なんだからな。存分に責任を取らせればいい。あいつはとっくに覚悟できているよ」
言い終わると同時に、藤堂はグラスを持ち上げた。カクテルピンを押さえてマティーニを煽り、口に入れたオリーブを噛みながら残りを流しこむ。
それを見た榊の顔には愉快げな色が差し、次のカクテルの用意を始めた。ドライジンに、ドライベルモット――どうやら二杯目もマティーニらしい。
「君のせいじゃない。誰のせいでもない。真耶もわかってくれているはずだ。きっと真耶の家族も……いつか」
独り言のような藤堂の低い声を、涼子は黙って聞いた。
いまだに煙草を吸おうとしない、彼の不器用な気遣いが身に沁みる。この静かな優しさに、西嶋はこれまで何度救われたのだろうか。視界を覆い始める涙をこらえながら、そんなことを思った。

