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琥珀色に染まるとき
第20章 ラスティネイルの夜

「涼子さん」

 優しく呼びかけられて顔を上げると、そこには年季の入った微笑みが待っていた。

「いかなる道を選んでも、人は迷うし、後悔します。人生に正解などありませんからね。それでも生きていくうえで、人は選択を迫られる。それがつらい選択になるとわかっていても、選ばなくてはならないときがある。そうして、後悔と奮起を繰り返しながら、必死に生きるんです。いつか、それが最善の道だったと思えるように」

 わざとらしいなぐさめでも、おおげさな励ましでもない、普遍的な言葉。それなのに、榊が語ると不思議なことに、すっと心の奥まで浸透した。にじみ出る優しさが、発される声に現れるからだろう。彼が西嶋の師匠だということをあらためて納得させられる。

「あ、榊さん。彼女こう見えて涙腺が弱いので、気をつけ……ああ、手遅れだった」

 藤堂の優しげな声。その顔を見なくとも、苦笑しているさまが目に浮かぶ。それでも、溢れる涙を止める術がない。

「私、向き合っていると思っていました。真耶さんのことにも、景仁さんとのことにも、自分の幸せにも、ちゃんと向き合ってるって……」

 彼となら、心は通じ合っている――そう思った。会えばいつも優しく包みこんでくれた、大きな手、たくましい腕、広い胸。その絶対的なぬくもりに抱かれ、甘い吐息の会話を繰り返す中で、根拠のない安心感を得られているような気がしていた。

「でもそれは……」

 呟いて、涼子は一つ深い息を吐いた。そうして昂る気持ちを静めると、再びぽつぽつと真情を言葉に変えていく。

「そばにいてくれる彼の優しさに甘えていただけで、自分ではなに一つ選択できていませんでした。いつも受け身で、どこか逃げ腰で。なにがあっても自分を見失わない……そういう覚悟ができていなかったんです。だから私は、すぐに怖気づいてしまった」

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