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琥珀色に染まるとき
第20章 ラスティネイルの夜

***
榊の朗らかな笑顔に見送られて店を出ると、路地を抜け、大通りを少しだけ歩いた。
「遅くまですまなかったな」
隣を歩く藤堂の、落ち着きのある低い声が耳に届く。
「いえ、ありがとうございました。榊さんにお会いして、お話しできてよかったです。それに、景仁さんがお二人からこんなに大切に想われていると知れて、嬉しかったです」
ネオンに照らされる暗い夜道。陰影をほどこされたそのするどい横顔が、わずかに口の端を上げた。
「腐れ縁で仕方なくさ」
「学生時代からのお付き合いだそうですね」
「ああ。その頃から澄ました野郎でね」
「ふふ」
西嶋も似たような皮肉を言っていたことを思い出し、自ずと笑いが漏れた。彼らの古くからの固い絆は、こうしてたくさんの縁を繋いできたのだろう。
「俺はもう一軒行くが、君はどうする?」
「私は帰ります」
「そうか」
なにかを感じ取ったのか、相づちをうった彼は一呼吸置いてから、こう続けた。
「しばらく会わない気は変わらないか」
「…………」
「そうか。わかった」
「ずっと、考えなくちゃいけなかったのに……肝心なことを後回しにしてきたから、罰が当たったんでしょうか」
口から出たのは、ほとんど独り言だった。それきり言葉を発することなくぼんやり歩いていると、ふっ、と静かな笑い声が聞こえた。
「そんな真面目な生き方じゃ、すぐに息切れするだろうな」
目をやると、厳然とした空気の中に浮かぶ優しい笑みに見下ろされる。
「人生は長いんだ、生きている限り。ペースを上げすぎると疲れちまう。そんなに焦らなくていい」
「はい……」
「感情が関わることをいくら頭の中で考えても仕方ないさ。人の感情は起伏を繰り返すものだから、そこにいちいち理由や意味を見出そうとしたら自分が矛盾だらけになる。だから混乱するんだ。こんなときこそ、素直な心に従ってみろ」

