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琥珀色に染まるとき
第20章 ラスティネイルの夜

「従ってもいいんでしょうか」
「そのかわり、苦痛を伴うかもしれないな」
「……はい」
藤堂が苦笑した。
「榊さんがなぜ最後にラスティネイルを出したか、わかるか」
「真耶さんのことを、思い出してほしかったから?」
「違うよ」
「…………」
「まったく、榊さんもわかりにくいんだよな。謎解きじゃあるまいし」
「どういう意味ですか?」
「気になるなら自分で調べてみるといい」
その意味深げな笑みに好奇心を刺激された。
携帯で“ラスティネイル”とネット検索してみると、なんとなく榊の言っていたことに繋がりそうな言葉は出てくるものの、核心をついている気がしない。検索を続けると、あるカクテル言葉に行きついた。
「私の苦痛を……」
途中まで声に出して読み、涼子は薄く笑った。そうして、心の中で囁いた。
――私の苦痛を、和らげる。
「ほんと、わかりにくい……」
震える声を静め、それだけ言うのが精一杯だった。涙で光る瞳を見られてしまわぬよう、視線を歩道に落とす。音を立てずにこぼれたしずくが、携帯を持つ手を濡らした。
「今日は早く休め。考えるのはあとだ」
その優しい声に急いで頬を拭い、涼子は隣に笑みを向けた。
「ありがとうございます」
「もう大丈夫か」
「はい」
「あいつになにか伝言は?」
走ってくるタクシーに手を上げながら、藤堂が言った。涼子はしばし悩んだ末、不器用な優しさを漂わすその背中に向かって口を開いた。
「決心がついたら必ず行きます、と……」
「はは、真面目だな」
笑われ、つられて口元がゆるむ。
腕時計に目を落とすと、ちょうど日付が変わろうとしているところだった。
藤堂の言うように、帰ったら早く休もう。考えるのはそれから――苦痛が和らいでからにしよう。そう語りかけてくる素直な心に、今夜は従うことにした。

