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琥珀色に染まるとき
第3章 出会いは静かな夜に
「理香さんがそうやって揚げ足を取るようになったら、心がお疲れになってきた証拠です」
「そりゃあ疲れたわよ、今日も。まだまだちっちゃな会社だし、生き残るのは大変なんだから」
「ええ。だから、私も彼もあなたの体調が心配なのですよ。言い方が悪いのは愛嬌です」
西嶋は藤堂を庇いながらも、うまく佐伯を諭した。しばらくむっとした表情を崩さなかった彼女も、やがて降参したとでもいうように目尻を下げ、わかっているわ、と言った。
その穏やかな表情には、切れ者女社長の面影など微塵もない。ここでしか拝めない彼女の素顔だ。
彼らとのやりとりは、佐伯が二人を心から信頼している証なのだろう。その関係性を少しだけ垣間見たように思い、涼子は自身の心に温かいものがじわりと広がるのを感じた。それと同時に、佐伯に向けられる優しいまなざしが自分に移されるのを待っていることに気づいた。
それが羨望なのか、それとも嫉妬なのかはわからない。もっと別の感情のような気もする。一歩足を踏み入れたら戻れない、泥沼のような――佐伯の言っていた言葉が思いのほか気になったからかもしれない。一見すべてが完璧な男に立つ噂とは、はたしてどのようなものなのだろうか。
ふと、西嶋が視線をよこした。そうして薄く口角を上げる。壁一面に並んだ色とりどりのボトルをバックに、ひときわ輝くヘーゼルの瞳が印象的だった。
その穏やかな笑顔は、なぜか唐突に、いつか感じたことのある妙な気分を思い出させた。
グラスを持つ手が震える。それを隠そうと、涼子は慌ててグラスを口元に運んだ。
ひんやりとした感覚が唇に走る。最後の一口を一気に飲み干すと、喉を通過した辛い液体は静かに胸を冷たくした。まるで、心まで凍らすように。