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琥珀色に染まるとき
第21章 記憶の中の彼女を

「うるさい! こいつは金のためならなんでもするんだよ。スナックに勤めているのだって、もともと俺みたいな男を騙して金を奪い取るためだったんだ。この女こそ詐欺罪で捕まるべきだ」
小林が、わめきながら明美に一歩近づいた。このままでは彼女に手をあげかねない。彼女を庇うようにして身体を寄せ、涼子は囁いた。
「明美さん。私がいるわ。もう独りじゃないからね」
微笑みかけると、彼女の表情はみるみるうちに崩れていった。
「小夜子を理解しているのは俺だけだ。それなのに、いい気になりやがって……他の男に媚びを売るんだ。だから、これは小夜子への戒めでもあるんだよ。それと、この男への」
自身の立てた筋書きどおりに事が運ぶのを愉しむように、小林は不気味な笑みを浮かべる。上着のポケットから数枚の紙を取り出し、こちらに向かって投げ捨てた。
地面に散らばったのは、写真だった。そこに写っていたのは、見慣れた路地に佇む雑居ビル、そこに入っていく明美の姿。真鍮製の取っ手がついた黒い扉、そこに記された店名。ブルーのバックライトの下に整然と並ぶボトル、黒いカウンターの上には一杯のカクテル、皿に盛られたチーズ――。
「実は探偵事務所に依頼して、明美の行動を調査してもらったんだ。浮気調査の名目で。そしたらそこに行きついた」
涼子はおもむろにしゃがみこみ、その中にいる人物を悄然と見つめた。それは、いつも客に見せる柔和な表情を浮かべながらシェイカーを振る、西嶋の姿だった。客を装って来店した探偵が、撮らせてくれと頼んで撮影したのだろう。優しい彼は快く応じたに違いない。
おそらく、十一年前の事件も探偵が探り当てたのだろう。
「こいつ、店に来る女を片っ端から食ってんだよ。小夜子はそんな奴に入れこんでる」
西嶋の写真に蔑むような視線を落とした小林は、そう言い捨てた。

