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琥珀色に染まるとき
第4章 虚しい戯れのあとは
第四章 虚しい戯れのあとは
バーから歩いて数分の、とあるホテルの一室。
いっさいの外光が遮断されたこの悪趣味な部屋は、欲望に忠実な男女がおのれの目的を果たすためだけに設置された箱である。ここに、愛など存在しない。
濡れた髪をそのままに、バスローブを羽織った景仁はシャワールームから出た。
乱れた広いベッドの上で静かに寝息を立てる女を見下ろす。なにも身に着けずに眠るその女の名前は知らない。この場限りの関係には必要ない。それは女のほうも同じだろう。
ふう、と息を吐いてベッドの端に腰かける。直後、背後で女の唸る声がした。振り向くと、うつろな瞳に見つめられていた。
「ん……寝ちゃってたんだ、あたし」
「ええ。終わってすぐに」
「だってあんた、すごくよかったから……ふふ」
「それはどうも」
微笑を浮かべながら答えると再び女に背を向け、心の中で盛大なため息をつく。正直、発した言葉とは真逆の気分だった。
無性にやるせない気持ちに支配される理由を考えてみる。思い当たるふしがないわけではない。
――あの女、名前は……。
その姿をぼんやりと思い出しかけたとき、ねえ、と甘い声で呼びかけられた。思考がいったん中断する。
シーツのこすれる音とベッドの沈みが近くまで達すると、背中に生温かく柔らかな素肌が触れた。振り返らずにいると、後ろから細い腕に抱きしめられた。
「さっきはSMっぽくしたから、今度は恋人みたいにして」
「ははは。それはまたおもしろい提案を」
「いいじゃない。これっきりの関係なんだし。それに約束したでしょ?」
「そうですね。一度だけの関係を約束してもらうかわりに、要望には可能な限り応えると約束しました」
「だったら、ちゃんとしてもらうわ」