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琥珀色に染まるとき
第21章 記憶の中の彼女を

「腰抜けども……」

 うつ伏せのまま情けない声で呟いた大男に馬乗りになり、自分の手首に巻きついていたロープでその太い腕を縛りあげた。

 そのとき、小林の奇声が耳に刺さった。

「ああっ……出る! 小夜子!」
「……っ」

 跳ねるように立ち上がって駆け寄り、その勢いのまま小林の顎を思いきり蹴り上げた。

「ぐあっ……」

 後ろによろけたところでもう一発、みぞおちに強打を食らわせる。小林はそのまま倒れこみ、呻き声をあげてうずくまる。いちもつの先端からは、穢れた液体が飛び出していた。

 そろって際立った特徴のない、一見どこにでもいる若者たち。明美と同じ二十代半ばくらいだろうか。闇サイトかなにかで寄せ集めた素人だろう。
 彼らのしたことが彼ら自身の人生に泥を塗ることになるのだと、十分に理解できる年齢のはずだ。どうしてわからないのだろう。それが哀しくて、おぞましい。

 涼子は一つ大きな息を吐き出し、小林に冷ややかな視線を落とした。

「あなたは、好きな女を、暴力で縛りつけることしかできないの?」
「て、めぇ……くそ……くそ……」

 うわ言のように繰り返すその口の端には血がにじんでいる。ついさきほどまでの顔に満ち溢れていた自信は、もはや皆無である。
 あたりを見まわすが、狐面の姿は見えない。あのままどこかへ逃げたのだろうか。

「明美さん、遅くなってごめんなさい。立てる?」
「……りょ、こさ……」
「一緒にここを出るわよ」

 言いながら自らのコートを脱ぎ、肌を露出している明美に掛けてやる。潤んだ目を向けられた。

「あり、がと……」

 彼女の腕を自分の肩にかけてその細い身体を抱えながら、低く呻いた小林を一瞥し、かすかに月光が差す場所に向かって歩き出した。
 遠くで雷鳴が轟いている。

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