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琥珀色に染まるとき
第21章 記憶の中の彼女を

男が無理やり押し入ろうとしてくる。記憶の中の男が、その穢れたものが、飢えた呼吸が、血走った目が、醜い笑みが――。
「こ、の……クズ……」
涼子は、絞り出すように吐き捨てた。
直後、ひときわ大きな雷鳴が響き渡った。激しい雷と雨の中に、なにか別の音が聞こえたように思えた。幻聴だろうか。
「お、おい……人の声だ」
狐面が怯えた様子であたりを見まわす。気のせいだろ、と吐き捨てた小林がショーツのわきから乾いたそこにおのれをねじ込んでくる。
「……っ、誰か! ここよ!」
涼子は叫んだ。今出せるすべてを自らの声に託して。すでに立ち上がる気力さえ失っていた明美も、声を振り絞る。
「助けて……助けてぇーっ!」
「てめっ、黙れ!」
とっさにナイフを振り上げた小林の無防備な腹にこぶしを突き上げ、その腕を掴む。
「い、てぇな……殺す……っ」
我を忘れたようにナイフを刺し下ろそうとする男。その力は尋常ではなく、両手で押さえてこらえるので精一杯だ。鋭利なナイフの先が、左目の上で震える。
「――こ!」
再び聞こえたそれは。
「りょう――!」
徐々に大きくなるそれは、人の叫び声。
「りょうこ!」
――彼の、声だ……。
「涼子っ」
あきらかに近づいてくるその声に、小林が顔を上げた。その一瞬の隙をついてナイフを奪い、できるだけ遠くに投げた。憤慨した小林が容赦なく顔や身体を殴ってくる。
「涼子!」
湿った廃墟内にこだましたその声のほうに、かろうじて動く首を倒す。かすかな逆光に、長身の男の姿が浮かび上がる。
――ああ、彼が、来てくれた……。
月光を背に受けながら駆けこんでくる彼の顔が、薄暗闇の中でその表情をあらわにする。
横たわる涼子の乱れた着衣とその上でひざ立ちになる男の醜態を目にすると、西嶋はその端麗な顔を一瞬のうちに怒りに染めた。

