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琥珀色に染まるとき
第21章 記憶の中の彼女を

「お前……っ」

 西嶋は男の胸ぐらを掴み、その顔面を殴る。男は、殴り飛ばされた衝撃でそのまま気を失ったように動かなくなった。それを目の当たりにした狐面は、西嶋の鋭い視線を受けて後ずさりし、そのまま逃げ去った。
 すばやくコートを脱いだ西嶋は地面にひざをつき、はだけた身体にそれを被せてくれた。その絶対的なぬくもりと彼の匂いに包まれて初めて、涼子は背中が凍りつくように冷たくなっていることに気づいた。
 わずかに起こした上体を、強く、強く、抱きしめられる。

「かげ、ひと、さ……」

 痛みなど感じなかった。ただただ、大きな安堵に全身の力が抜けていった。

「ばかやろ……っ」

 耳元で絞り出されたその声は震えている。

「どうして、こんな……」

 その涙声を聞きながら、涼子はぼんやりと天井を見つめていた。染みだらけの薄汚れたそれが、視界を覆い始めた涙で歪んでいく。

「ごめ、なさ……」

 まぶたから溢れ出したそれは温かい。あとからあとから流れ落ち、冷えきった二人の頬を濡らした。

「涼子さ、ん」

 言いながら地面を這いつくばってくる明美の存在にようやく気づいた西嶋が、はっと視線を向ける。

「あの、ごめんなさい。私……」
「大丈夫か?」

 彼女の謝罪には答えず、西嶋は穏やかに尋ねた。

「ん……涼子さんが、私を護ってくれた。涼子さんが、護ってくれたの」

 その言葉は、涼子の胸の中にじわりと浸透した。熱いものがこみ上げて視界がぼやける。
 ふと、西嶋の広い肩越しに、怯えきった表情で佇む狐面が見えた。足音一つ立てずに死角から忍び寄ってきたのだ。震えるその手には、ナイフが握られている。

「だ、めっ……!」

 涼子の叫びに驚いた西嶋が後ろを向くのとほぼ同時に、男がナイフを突き出した。

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