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琥珀色に染まるとき
第21章 記憶の中の彼女を

その瞬間から、まるで時間が止まったかのようにすべてがスローモーションで流れた。
何者かの足音が近づいてきたかと思えば、勢いよく伸びた長い脚がナイフを蹴り飛ばす。そして、男の背後から回された腕がその首を絞めると、ばたつく男をものの数秒で気絶させた。あっという間の出来事だった。
「往生際の悪いガキだな」
そこにいるのは、脱力した狐面を片腕で抱え、しかめ面を向ける黒スーツ姿の藤堂だった。
「この貧弱なガキと、そこに転がっている奴らを頼む」
そう告げた彼の視線を追うと、だらりと倒れている男たちを警察官や救急隊が取り囲む光景が目に入った。何人かの救急隊員が足早にこちらに向かっている。その中に、城戸の姿も見えた。
「悪い。油断していた」
すまなそうに言った西嶋に藤堂は言葉を返すことなく、こちらを見下ろした。
「あいつら、君一人で片づけるつもりだったのか」
「……はい」
眉間にしわを寄せた西嶋がなにかを言いかけたが、藤堂はそれを遮るように深いため息を吐いた。
「まったく君という女は。……無事でよかった」
その優しい声に安堵し、気を抜くと身体に痛みが走った。
「うっ」
「東雲!」
「城戸、くん……」
走り寄ってきた城戸に力なく微笑んでみせると、彼は言葉を失くして地面にひざをついた。
「そんな顔、しないで……大丈夫」
「お前……っ」
彼はその可愛らしい犬顔をくしゃくしゃに歪める。
「気づいてくれて、ありがと」
「涼子。無理して喋らなくていい」
西嶋の優しい、苦しげな声に促されるまま、黙ってその腕の中でまぶたを下ろす。視界が暗闇に包まれると、急激に意識が薄れていった。
気を失う直前、視覚のかわりに敏感になった聴覚の中で耳にしたのは、彼らと救急隊員の声に混じって鳴り響く雨の音だった。
無情に鳴り続ける、あの日と同じ音だった。

