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琥珀色に染まるとき
第21章 記憶の中の彼女を

***
誰かの声が聞こえる。
――まさか、お前からあの男を誘ったのか。
――違う。
――答えなさい、涼子。
――違うってば。お願いだから、信じて。
――お前も、あいつと同じなのか……。
記憶の根底にひそむのは、父の厳しい声と自分の心の声。
十一年前、入院した病院の個室で交わした会話……いや、会話ではない。涼子は父に疑われたショックで、一言も発することができなかったのだから。
身体も精神も痛めつけられ、自分が自分でないような感覚に襲われていた。脳に膜がかけられたようにすべてが不透明で、事件の詳細を思い出せず、思い出そうとすると気分が悪くなり昏倒することもあった。
お前もあいつと同じなのか――あれは、そんなときにかけられた言葉だった。
あの瞬間、父は正気ではなかったのだ。娘を責めるつもりはなかった。ショックと混乱の渦に飲みこまれて正常な判断がつかない状況で、自力で水面に浮かんでくることができずにいた。息もできない暗闇に溺れ、苦しんでいたのだ。
そうして、ほかに男を作って自分のもとを去った妻に娘を重ねた。
きっとそうだ。そうでなければ、厳格だが優しかった父があんなことを口走るはずがない。
――お父さん……!
願うように父を強く想ったとき、赤みがかった視界がゆっくりと開けていった。まだぼんやりと靄がかかったような景色の中に、白い天井が映る。
「あっ、東雲」
「涼子、涼子。……目が覚めたか」
目線を少し落とすと、両側から二人の男に顔を覗きこまれていた。夢の延長のような不思議な気分で、西嶋と城戸を交互に見つめる。
「わかるか、病院だ」
西嶋の優しい声にぎこちなく頷くと、静かな微笑みが返された。
「ったく、心配させやがって!」
城戸が突然声をあげたかと思えば、彼は大きな手でその顔を覆ってしまった。

