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琥珀色に染まるとき
第21章 記憶の中の彼女を

 黒いスーツの肩を小刻みに震わせている。

「また泣いてるの……?」
「う、うるせっ」
「お前は男泣かせだな」

 苦笑混じりに呟いた西嶋が、こちらに手を伸ばす。その大きな手に頬を包まれ、この尊いぬくもりを失わずに済んでよかったと、涼子は心から思った。
 自分の置かれた状況がわかると、様々なことがいっぺんに思い出された。

「あっ、明美さん……明美さんは?」
「彼女もこの病院で治療を受けてるよ」
「無事なのよね?」

 西嶋は優しい表情を浮かべ、しっかりと頷く。

「そう。よかった……」

 安堵の息が漏れたそのとき、病室の扉が開く音がした。ゆっくりと足音が近づき、高い位置から見下ろしてくる藤堂と目が合う。

「起きたか」
「はい」

 納得したように頷いた彼は、わずかに口の端を上げた。

「よく機転を利かせたな」
「あ……」

 その視線が、悔しげに目を伏せる城戸に移る。

「お前も、よく気づいたな」
「不審な行動を監視し合うのも仕事のうちなんで」

 だけど、と小さくこぼした城戸が、こちらに心配そうな視線をよこした。

「会社携帯がスーツのポケットに入れてあるってばれたら、どうするつもりだったんだよ」
「あの状況では最善の策だったのよ。彼らがプロではないというのはすぐにわかったし、気づかない可能性が高いと思ったの」

 城戸とは反対側のベッドわきで、西嶋が哀しげに眉を寄せる。

「涼子……」

 精一杯の笑顔を返すと、その顔には困惑の色が差す。

「まったく、お前は……」

 それ以上言葉が続かない彼と、説明しようのない感情を乗せた視線を交した。

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