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琥珀色に染まるとき
第21章 記憶の中の彼女を

しこりのように残る想いを胸の内でつぶやいたとき、彼が伏せていた顔を上げた。
「自分が悪いなんて、もう言わないでくれ」
心の弱音を遮ったそれは、子供を叱るような厳しい口調で、それでいて哀しげな声色だった。目の前で揺れる綺麗な瞳は、底知れぬ憂いを帯びている。
再び視線を逸らした彼は、深く息を吐き出した。きつく目を閉じ、なにかに耐えている。
「でも……でもね、景仁さん。本来なら、事件に発展する前にどうにかしなければならない問題なのよ。彼らが加害者と被害者になってしまう前に、私がボディーガードとして間に入って、解決の糸口を見つけなければいけなかったの」
言い聞かせると、その眉間に刻まれたしわが浅くなり、ゆっくりとまぶたが持ち上げられ、彼はけだるげに視線だけをよこした。
「俺が言っているのは、そういうことじゃない」
「…………」
「いいか? お前に落ち度なんかない。悪いのは、最終的に犯罪に手を染めるに至るまで自分を制御できない、そういう精神状態にある人間なんだ。彼らにどんな背景があっても、そこにどんな理由があってもだ。わかるな?」
「うん……でも、私がもう少し、器用にできればよかったの」
たくさんのジレンマを抱えながら……加害者が加害者になる前にどうにかできれば、犯罪が生まれることはない。そう信じてやってたつもりだった。
「だけど、できなかった……私のせいなの」
自らが被害者として苦しんできた涼子には、それができなかった。加害者の心には寄り添うことができなかった。どうしても、できなかった。
「涼子……」
なにかを思い出したように苦しげに眉を寄せたあと、彼はその温かい手のひらで頭を撫でてくれた。なにかを必死に抑えるようなその声は、どんな感情を、どんな言葉を、我慢しているのだろうか。

