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琥珀色に染まるとき
第22章 涙は朝雨のように

 それからひとしきり泣いた涼子は、やがて乱れた呼吸を整えようと深い息を繰り返し始めた。表情はいくらか和んだようにも見える。涙に濡れたその頬を、景仁は指で優しく撫でた。

「お前は独りじゃない。信頼できる仲間や友人がいるだろう」

 潤んだ瞳が揺れる。

「それと、お前を愛してやまない男も」

 数回のまばたきのあと、彼女は力なく噴き出した。

「そこは笑うところなのか。ちょっとショックだな」
「ふふ」
「否定してくれよ」

 しばらく静かに笑い続けた彼女は、ふと真剣なまなざしを天井に向けた。

「でも、お父さんは独りなの。昔も、今でもきっと、独りぼっち……」

 その言葉と、哀しみにかげるその瞳を目にして初めて、景仁は涼子の孤独の本質を垣間見た気がした。彼女の心に残された父との記憶は、彼女自身が思うよりはるかに彼女の中に強烈な傷痕を刻みこんでいる。
 涼子が過去を恐れているのは、あの事件だけが原因なのではない。ほんの些細なきっかけで、想像以上に心が深くえぐられてしまうほど――それほどに、彼女は父親を愛している。家族を想う気持ちが、彼女を過去に縛りつけているのだ。

「涼子は優しい子だな。底抜けにいい子だ」
「……なにそれ。子供を褒めてるみたい」

 目を細めたその柔らかな表情は、見る者の心を溶かす。その笑顔にどれほどの威力があるのかを、彼女は気づいていない。

「次にお父さんに会うときには、きっとそんなふうに笑えるさ。お前の笑顔を見たら、お父さんは独りじゃなくなる」
「……そう、かな」
「そうだよ」

 不安げに見上げてくる彼女に、景仁は優しく微笑んでみせた。

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