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琥珀色に染まるとき
第22章 涙は朝雨のように

「昨日は大変だったわね。……涼子ちゃんは、大丈夫?」
やはり遠慮がちに尋ねられた。
「大事には至らなかったですし、話もしっかりできていました。ただ、精神面は少し心配です」
「そう……。お見舞いは涼子ちゃんがもう少し落ち着いてからにするわ」
「お気遣いありがとうございます」
微笑みかければ、佐伯の不安げな目はふっと弧を描いた。
二つのカクテルグラスを用意し、氷を入れて冷やしておく。取り出したドライ・ジンとシャルトリューズ・ジョーヌを目にした藤堂は、提供されようとしているカクテルの検討がついたようだ。
「アラスカだな。社長の偽りなき心を探ってどうするつもりだ」
「これはお前のだよ。理香さんはこっち」
続けて用意したスイート・ベルモット、シャルトリューズ・ヴェール、オレンジ・ビターズを見て、佐伯が静かに笑った。
「ビジューかしら」
「美しい理香さんに」
「あら、お上手」
佐伯は満足げに返し、優雅に黒髪をかき上げた。あからさまに顔をしかめる藤堂の隣で、彼女は肩を揺らす。
「ふふっ。西嶋くんは藤堂の心が知りたいのね。やっぱりあなたたち、アレなの?」
「別に深い意味はありませんよ。男を酔わせてカクテル言葉で口説く趣味はないですし」
「気色悪いな。また変な噂が立つぞ」
吐き捨てた藤堂は、その言葉に似合わず美味そうに煙草を吸う。
「シェイクでいいか? ステア?」
作り方を問えば、お好きにどうぞ、とでも言いたげに藤堂は肩をすくめてみせた。
佐伯には特に聞かずに、景仁は作業を始めた。ビジューの作り方には、プースカフェ・スタイル――比重の重い材料の順に注いで色の層を作る製法――もあるが、彼女はそれを望まないとわかっていたので、初めからステアにすると決めていた。

